§環境にやさしい飼料作物の肥増管理
石川県畜産総合センター
技師 柴 教彰
(現 石川県農畜産課畜産係)
§セル内基肥によるキャベツの減窒素栽培
千葉県農業総合研究センター
北総園芸研究所 東総野菜研究窒
研究員 岩佐 博邦
§肥料の常識・非常識(2)
越野 正義
石川県畜産総合センター
技師 柴 教彰
(現 石川県農畜産課畜産係)
21世紀の畜産は生産性を向上させながら,いかにして環境負荷を軽減させた「環境保全型・持続可能な畜産」を実現していくかが, 一つのキーワードになると思われる。
飼料作物栽培においても従来の堆肥と速効性肥料を併用した肥培管理では生育初期から飼料作物の養分要求量よりも過剰な化学肥料が供給されているため,多くの肥料成分有効に利用されていないと考えられる。特に,雨や雪等で最も溶けやすい窒素成分(硝酸態窒素)は(リン,カリウム,カルシウム,マグネシウムは溶脱しにくい1),飼料作物に吸収されずに溶脱・流亡による水質汚染や脱窒作用により,温室効果ガスの一つである亜酸化窒素を放出させ,環境汚染を引き起こす原因として懸念される。
通常,速効性窒素肥料(複合,単肥)が農作物で広く利用されているが,上記のような環境負荷を軽減させるために,飼料作物の生育に合わせた窒素成分を効率的に供給できる肥効調節型肥料を組み合わせて,窒素吸収や肥料の削減等合理的な肥培管理を明らかにし,飼料作物の安定生産を図るためスーダングラスで検討したのでその概要を報告する(図1)。

肥効調節型肥料の選択にあたり,予備試験として本センターの圃場で慣行栽培どおりの施肥量でスーダングラスを栽培し,生育中における乾物収量の推移を検討した。
1番草の乾物収量は播種後の約30日以降,また2番草では1番草刈取り後の約10日以降から急な増収傾向が見られた。このことから,スーダングラスの乾物収量の推移はS字カーブを描いて増加していることがわかる(図2)。窒素施肥量を削滅するためには窒素要求量に応じた窒素成分を効率的に供給する必要があり,増収傾向が見られる時期から溶出する肥効調節型肥料を用いれば良いと考えられ,本試験においては1番草に対してLP30,2番草に対してはLPS80またはLPS100が適すると考えられた。

供試品種はヘイスーダンを用い,播種日は平成14年6月3日。播種面積は1区6.3㎡(2.1m×3.0m)の3反復で、行った。化学肥料は全面に施用し,土壌とよく混合した。播種方法は畦間60cmの条播(3kg/10a)とした。
試験区分は無肥料区(肥料なし),堆肥区(堆肥のみ),慣行区(対照区)と試験区(以下減肥区)で行い,減肥区は慣行栽培における生育中の乾物収量の推移から検討した結果,LP30+LPS100(5:5)混合の20%減肥区(以下LPS100(20%減肥)区)。LP30+LPS80(6:4)混合の20%減肥区(以下LPS80(20%減肥)区),その40%減肥区(以下LPS80(40%減肥区)を設定した(表1)。

1番草の慣行区と減肥区の草丈は播種後31日までほぼ同様の生育で推移したが,生育後半の49日さらに60日以降では慣行区より減肥区は顕著に高い傾向で推移した(図3)。2番草の草丈では減肥区は追肥を行わなくても刈取りまで慣行区とほぼ同様な草丈で推移した(図4)。


1番草の乾物収量は慣行区よりLPS100(20%減肥)区,LPS80(20%減肥)区で20%以上増収し,LPS80(40%減肥)区で約15%増収した。2番草では1番草ほどの増収は見られなかった。
1番草と2番草の合計乾物収量は慣行区に比べ,LPS100(20%減肥)区,LPS80(20%減肥)区で10%以上増収し,LPS80(40%減肥)区では差が見られなかった(図5)。

1番草と2番草の合計窒素吸収量は慣行区が12.0kg/10aであったが,LPS100(20%減肥)区12.8kg/10a,LPS80(20%減肥)区で12.2kg/10a,LPS80(40%減肥)区で12.3kg/10aであった(図6)。

堆肥区を基準として化学肥料由来の窒素利用率を算出した結果,慣行区より減肥区は最大で約2倍に向上し,また,20%から40%に減肥することで窒素利用率が向上した(図7)。

土壌中の肥効調節型肥料は根毛によって包込まれているため,窒素成分を効率的に吸収したと考えられる(図8)。

灰分,CP(粗蛋白質),OCC(細胞内溶物質),OCW(細胞壁物質),Oa(高消化繊維),Ob(低消化繊維),OCC+Oa,TDN(可消化養分総量)について分析した結果,1番草,2番草ともに慣行区と減肥区の各成分の間には有意差は認められなかった(Tukeyの検定)(表2)。

試験期間中におけるLP肥料の溶出量を把握するために肥料の埋込み試験を播種と同時に行った。LP30,LPS80,LPS100の肥料を単体で5gをメッシュ袋に入れ,土壌中に埋込み(埋設深5~10cm),約10日毎に取出し,乾燥させ,重量差を測定した。窒素溶出量の算出には富山県高岡農業改良普及センターが作成した数式を用いて算出した2)。
LP30+LPS100(5:5)混合は埋込み開始の20日目に小さなピーク,50日目に大きな溶出ピークがあり,11日目から80日目まで絶えず8%以上の窒素を溶出した(図9)。

LP30+LPS80(6:4)混合は20日目に大きな溶出ピークはあるが,その後徐々に減少した(図10)。

肥効調節型肥料をスーダングラス栽培に用いることで,
①乾物収量は窒素施肥量を慣行より20%減肥で10%以上増収し,40%減肥でも慣行栽培並の収量が得られる。
②化学肥料由来の窒素利用率は,40%減肥で2倍に向上し,窒素施肥量が10a当り6kg削減される。
③全量基肥施肥で追肥作業が省略できる。
④飼料としての栄養価は,減肥しても変わらない
等といった利点や効果が挙げられ,留意点としては,①肥効調節型肥料は,土壌と混合する事によって効率的な肥効が期待できる。②飼料作物栽培圃場の地力や,施用する堆肥の種類や水分によって,施肥窒素の減肥率や化学肥料由来の窒素利用率が異なるため,注意する必要がある。
飼料作物栽培は堆肥の有効利用と化学肥料の組合せで養分バランスのとれた土壌から良質粗飼料を生産し,併せて環境への負荷軽減に努めることが,今日の環境保全や持続的な畜産を展開する上で重要である。
畜産農家は長年の経験によって適当量の化学肥料を施用していることを考えると,従来の肥培管理では環境負荷を軽減させることは難しいと思われる。今回の試験では肥効調節型肥料を用いてスーダングラスの生育収量の推移に合致させる栽培を行うことで窒素肥料が削減でき,状況によっては増収も見込めることが示唆された。環境負荷を軽減させるには様々なアプローチがあるが,堆肥からの肥培管理の改善は当然であるが,速効性肥料で補えない点を適切な肥効調節型肥料に変えることで「環境保全型・持続可能な畜産」を進めることが可能であり,今後環境にやさしい飼料作物栽培を行う上で本試験結果が畜産農家の参考になれば幸いと考える。
1)松本美枝子(2001)施設軟弱野菜の持続的安定生産のために,農業と科学(7)p6~10
2)石崎美喜(2002)水稲直播栽培における基肥一発肥料の施肥方法について,平成13年度「改良普及職員等留学派遣研修成果発表会」
千葉県農業総合研究センター
北総園芸研究所 東総野菜研究窒
研究員 岩佐 博邦
近年,「安全・安心」な農産物を求める戸の高まりにより,ブランド化・高付加価値化を目的とした減農薬・減化学肥料栽培が広がりを見せている。このような動きに合わせて,国は,化学合成農薬使用回数及び化学肥料の施用量を慣行比5割減して栽培した農産物を「特別栽培農産物」と規定した。
ブランド化・高付加価値化以外に,特に減窒素栽培が求められる理由としては,施肥由来の硝酸態窒素による地下水汚染問題が挙げられる。地下水への硝酸態窒素の流入を減らすためには,圃場に施用された窒素を作物に効率的に利用させる必要がある。
作物による窒素の利用効率を上げるための手法としては,根の近傍に施肥を行う条施肥などの局所施肥や,肥料成分がゆっくりと溶出する被覆肥料の利用などが挙げられる(松丸,2002)。
一方,栽培の省力化という観点から,機械移植とそれに附随したセル成型苗の導入が進んでいる。このセル育苗技術は,栽培の省力化だけではなく,減窒素栽培に応用できると考えられる。セル成型苗の育苗培養土に被覆肥料を混合する究極の局所施肥により,施肥窒素利用率を高め,減窒素栽培を実現することが本試験のねらいである。
本試験の実施にあたっては,チッソ旭肥料(株)より被覆燐硝安’2401M-70S’の提供および助言をいただいた。本肥料の成分は窒素24%,リン酸1%,カリ0%で,シグモイド型の溶出パターンを示し,25℃条件下で施用後30日間の溶出率が3%以下,施用後70日間の溶出率が80%以上となっている。
本試験では春まき初夏どり栽培及び夏まき冬どり栽培で,セル内基肥による減窒素栽培について検討した。
品種’YR秋早生’(増田採種場)を供し,東総野菜研究室圃場(千葉県海上郡飯岡町)で試験を実施した。
試験区は慣行基肥+追肥区慣行基肥+無追肥区,セル内基肥+追肥区,セル内基肥+無追肥区,無窒素基肥+追肥区,無窒素基肥+無追肥区とした。慣行基肥+追肥区及び慣行基肥+無追肥区は基肥として’高度16’(16-16-16)を80kg/10a施用した。セル内基肥+追肥区及びセル内基肥+無追肥区は,基肥として’2401M-70S’を育苗培養土1リットルあたり600g混和した。
試験区ごとの基肥窒素施用方法及び窒素施用量は表1の通りである。

リン酸及びカリの基肥施用量は,いずれの試験区においても12kg/10aとした。
2001年3月22日に128穴セルトレイに播種し,セル育苗を行った。育苗培養土は’与作N-8’(チッソ旭肥料)を用いた。4月20日に畦間60cm,株間40cmで定植した。5月28日に慣行基肥+追肥区,セル内基肥+追肥区および無窒素基肥+追肥区に’野菜追肥専用S842’(18-4-12)を22kg/10a施用し,7月10日に収穫調査を行った。
品種’YR春系305号’(増田採種場)を供し,東総野菜研究室圃場で試験を実施した。
試験区の設定,施肥の内容は,試験1と同様である。
2001年8月27日に128穴セルトレイに播種し,セル育苗を行った。育苗培養土は,’与作N-8’を用いた。9月21日に畦間60cm,株間40cmで定植した。10月16日に慣行基肥+追肥区,セル内基肥+追肥区および無窒素基肥+追肥区に’野菜追肥専用S842’(18-4-12)を22kg/10a施用し,2002年1月24日に収穫調査を行った。
セル内基肥を行ったセル成型苗と慣行のセル成型苗の生育には,有意な差が認められた。定植直前の播種後29日目では,慣行のセル成型苗と比較して,地上部生体重が約4倍,草丈が約2倍となり,葉数も増加した(表2)。

慣行基肥+追肥区とセル内基肥+追肥区の間に収穫時の地上部重及び球重の差が見られなかったことから,セル内基肥を実施しても追肥を施用すれば慣行栽培と同等の収量が確保できると判断された。
施肥窒素利用率とは,圃場に施用した窒素の何%が作物に吸収されたかを示す値である。施肥窒素利用率は,セル内基肥+無追肥区が最も高かった。追肥の条件を揃えて慣行基肥とセル内基肥を比較すると,セル内基肥によって,7~16%,施肥窒素利用率が向上した(表3)。

栽培圃場の深さ別の硝酸態窒素含量を施肥前と収穫後に調査した。施肥前では,深さ45cmより下層の硝酸態窒素含量が高い傾向が見られた。収穫後では,慣行施肥区で深さ60cmより下層に残った硝酸態窒素含量が100g乾土当たり0.5~1.9mgであったのに対して,セル内基肥区では100g乾土当たり0.4mg以下であった(図1)。

以上のことから,春まき初夏どり栽培において,育苗培養土1リットル当たり,被覆肥料’2401M-70S’を600g混合することにより,慣行の施肥法による栽培と同等の収量が確保できることが分かった。
セル内基肥を行ったセル成型苗と慣行のセル成型苗の生育には,有意な差が認められた。定植直後の播種後29日目では,地上部生体重,草丈及び葉数が,慣行のセル成型苗に比べて増加し,最大葉の葉色が濃くなった(表4)。

慣行基肥+追肥区とセル内基肥+無追肥区の間に収穫時の地上部重及び球重の差が見られなかったことから,セル内基肥を行うことで,慣行栽培と同等の収量が確保できると判断された。また,セル内基肥+追肥区とセル内基肥+無追肥区の間に収穫時の地上部重及び球重の差が見られなかったことから,セル内基肥を行えば,追肥は必要ないと判断された。施肥窒素利用率は,セル内基肥+無追肥区が最も高かった。追肥の条件を揃えて慣行基肥とセル内基肥を比較すると,セル内基肥によって,12~14%,施肥窒素利用率が向上することが分かった(表5)。

収穫後の圃場に残る硝酸態窒素量を測定したところ,セル内施肥区に残る硝酸態窒素量は,慣行施肥区と比較して大幅に減少した。特に深さ60cmより下層で大きな差が見られた(図2)。

以上のことから,夏まき冬どり栽培において,育苗培養土1リットル当たり,被覆肥料’2401M-70S’を600g混合することにより,慣行の施肥法による栽培と同等の収量が確保できることが分かった。
被覆肥料からの窒素溶出量は温度に依存するため,育苗期間の温度が最も高くなる夏まき冬どり栽培での影響が大きいと思われたが,春まき初夏どり栽培での影響がより大きかった。生体重は,春まき初夏どり栽培では,慣行セル育苗の約4倍となったが,夏まき冬どり栽培では,慣行セル育苗の約1.8倍に止まった。
葉色は夏まき初夏どり栽培で有意に濃くなっており,温度上昇に伴う窒素溶出量の増加が,濃度障害を引き起こしたと思われる。
草丈は,機械移植適性を考慮し,9.6~12.0cmの幅に収まるのが望ましい(福地ら,2000)。いずれの作型においても,その範囲に収まったが,葉の幅が広くなるために,定植精度に影響を及ぼす可能性があると判断された。この点については今後の検討が必要である。
いずれの作型においても,セル内基肥施用により窒素施用量を慣行基肥に対して40%程度削減できた。施肥窒素利用率は一般的に30~40% とされており(千葉県,1994),セル内基肥施用による55~70%という値は極めて高いと言える。データを省略しているが,根の近傍に施肥していることによる,生育初期における利用率の向上が大きな要因であると思われる。
硝酸態窒素の黒ボク土壌中での垂直方向の浸透速度は1000mm/年程度と言われている。これは年間降水量が1500mmで,その3分の2が土壌に浸透すると仮定して計算された数値である。
定植から収穫までの半旬ごとの積算降水量は,春まき初夏どり栽培で210mm,夏まき冬どり栽培で749mmであった。土壌に浸透する割合を3分の2と仮定すると,土壌への推定積算浸透水量は,春まき初夏どり栽培で約140mm,夏まき冬どり栽培で約500mmとなる。
春まき初夏どり栽培では,図1に示されているように深さ60cmまでの硝酸態窒素が収穫後にほとんど残っていない。硝酸態窒素の垂直方向の移動量を推定積算浸透水量に等しい140mmと仮定すると,施用された窒素は,ほぼ完全に吸収されたと考えられる。
一方,夏まき冬どり栽培では,図2に示されているように,深さ60cmより下層に残っている硝酸態窒素が慣行基肥区で多い。硝酸態窒素の垂直方向の移動を推定積算浸透水量に等しい500mmと仮定すると,生育初期に吸収されなかった窒素が,深さ60cmより下層に移動した可能性が考えられる。
1)千葉県(1994)主要農作物等施肥基準.100
2)福地信彦ら(2000)キャベツセル成型苗の生育調節剤による伸長抑制および苗の形質と全自動移植機による植え付け精度の関係.千葉農試研報.41:11-17
3)松丸恒夫(2002)千葉県における野菜の減肥技術-最近の研究成果-.農業技術.57(12):21-25
越野 正義
有機農業についての考え方,定義などは国,団体などによって微妙に遠いがある。有機農産物のコーデクス(FAO/WHO)では,土壌の肥よく度の維持・改善のための大原則は,①輪作により緑肥深根作物を入れる,②有機物の施用(自分の所有地で有機的に生産した物,または有機的に生産した畜産廃棄物)となっているが,それでは植物養分が不足する場合に,リストに示した資材を最低限度の量使えることになっている。この不足する養分とは微量要素を考えているグループもあるが,コーデクスでは,リン酸源としてリン鉱石粉末(カドミウム90mg/kg以下),カリ源としてはカリ鉱石,硫酸カリ,硫酸カリマグなどをリストに入れている。
このように有機農業とはいっても特定の無機肥料は認められているのであるが,それらは天然に掘り出され,それ以上の加工(化学的な)をしていない物に限定されている。
カリ塩では硫酸カリは許容されるが,塩化カリは溶解性カリ塩として欧米の有機推進派は排斥する。硫酸カリ鉱石(アーカナイト)は天然にはほとんどない。採掘されるのは硫酸マグなどとの複塩であり,これを複分解(化学的工程!)を経て硫酸カリとしている。塩化カリは鉱石を採掘し,あるいは再結晶などで精製して製造される。したがって天然産であり嫌われる筋合いはないのであるが,米の有機論者は塩化カリを化学肥料の代表して抵抗する。
日本のJASでも塩化カリは,初めは落とされていたが,その後の論議でリストに入った。国際的整合性から今後どうなるかと思っている。
(財 日本肥糧検定協会 参与)